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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)90号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 まず、本願第一発明と引用例記載のものとは、印刷配線基板に化学メツキによつて導電層回路を形成するに際し、疎水性物質によつてコーテイングを行うことにより回路構成部分以外に無電解メツキ層が形成されないようにした点で一致するとした審決の認定の当否について検討する。

(一) 成立に争いのない甲第二号証(昭和五一年一〇月八日付手続補正書)によれば、本願第一発明は印刷配線(プリント配線あるいはプリント回路とも称する。)の技術分野に属するものであることが認められ、前示本願発明の要旨記載のとおり、本願第一発明に係る絶縁基板に金属を選択的に被着する方法は、絶縁基板の少なくとも片面上に無電解金属メツキ用シード液によつて実質上湿潤されることのない疎水性絶縁マスクを形成して、当該基板表面のあらかじめ定められた面域を除く部分をその疎水性絶縁マスクでおおう工程と、絶縁性基板を無電解金属メツキ用シード液に浸接して、基板表面の疎水性マスクでおおわれていない露出面部分に無電解金属メツキに対する受容性を与える工程と、絶縁基板を無電解金属メツキ液に浸接して、疎水性絶縁マスクでおおわれている基板表面に金属を付着させることなく前記露出面部分にのみ金属を無電解メツキする工程とから成るものである。

他方、成立に争いのない甲第六号証によれば、引用例には、「印刷配線の回路パネル10の片面上に、化学的還元法によるメツキの溶媒あるいはキヤリアに対して強い排斥性を有するマスクを形成して、当該回路パネル10のうち導電回路としてあらかじめ定められた面域を除く部分をこのマスクでおおう工程と、回路パネル10に化学的還元法によるメツキ液を吹き付けて、回路パネル10の表面のマスクでおおわれている部分に金属を付着させることなく、回路パネル10のマスクでおおわれていない露出面部分のみを金属メツキする工程とから成る、回路パネル10に金属を選択的に被着する方法」。(別紙図面(二)参照)が記載されていること、引用例記載のものに用いられている化学的還元法によるメツキ手段は、金属の水溶性塩(例えば、硝酸銀)に還元剤(例えば、硫酸ヒドラジン)を加えることにより直接化学反応を起こさせ、前記露出面部分に金属を析出させるものであることが認められる(右認定の引用例記載のものの技術内容は、審決が認定し、原告が昭和五七年二月二七日付準備書面第一項(二)で認めた引用例記載の技術内容を包含し、これを更に具体的に把握したものである。)。そして、右回路パネル10は、本願第一発明における絶縁基板に相当するものであること、溶媒あるいはキヤリアに対して強い排斥性を有するマスクとは、溶媒あるいはキヤリアによつて実質上湿潤されることのない疎水性絶縁マスクであることは明らかである。

本願第一発明と引用例記載のものとを対比すると、両者は、印刷配線の絶縁基板の片面上にメツキ用液によつて実質上湿潤されることのない疎水性絶縁マスクを形成して、当該基板表面のあらかじめ定められた面域を除く部分をその疎水性絶縁マスクでおおう工程と、絶縁基板を金属メツキ液に作用させて、疎水性絶縁マスクでおおわれている基板表面に金属を付着させることなく、基板表面の疎水性絶縁マスクでおおわれていない露出面部分にのみ金属をメツキする工程とから成る、絶縁基板に金属を選択的に被着する方法であるという点で一致するが、メツキ手段及びマスクに関して、本願第一発明は、前処理としてシード液を利用する無電解メツキであるのに対して、引用例記載のものは、化学的還元法による金属メツキであり、また、メツキ手段の右相違に基づいて、本願第一発明では、シード液により実質上湿潤されることのない疎水性絶縁マスクを用いるのに対して、引用例記載のものでは、メツキ用溶媒やキヤリアにより実質上湿潤されることのない疎水性絶縁マスクを用いるという点、増感処理に関して、本願第一発明は、メツキに先立ち、絶縁基板をシード液に浸漬して疎水性絶縁マスクでおおわれていない露出面部分に無電解金属メツキに対する受容性を与える工程(増感処理工程)を有しているのに対して、引用例記載のものは増感処理工程を欠いている点において相違しているものと認められる。

(二) 右認定事実と弁論の全趣旨によれば、本願第一発明と引用例記載のものにおけるメツキ手段はいずれも、電解メツキでないメツキのことを総称して用いられる「化学メツキ」に含まれることが認められるけれども、前記のとおり、本願第一発明におけるメツキ手段は、絶縁基板表面をシード液で増感処理した後、無電解メツキ液に浸漬して、絶縁基板表面のマスクでおおわれていない露出面部分に金属を析出させるものであるのに対して、引用例記載のものにおけるメツキ手段は、化学的還元法によるメツキ技術を利用していて、金属の水溶性塩に還元剤を加えることにより直接化学反応を起こさせ、右露出面部分に金属を析出させるものであるから、両者はそのメツキ手段を異にしていることは明らかである。

次に、本願第一発明において用いられるマスクは、シード液によつて実質上湿潤されることのない疎水性絶縁マスクであり、一方、引用例記載のものにおいて用いられるマスクは、化学的還元法によるメツキの溶媒あるいはキヤリアによつて実質上湿潤されることのない疎水性絶縁マスクであるが、本願明細書及び引用例に基づき、両マスクの右特性の具体的内容について検討すると次のとおりである。すなわち、まず前掲甲第二号証によれば、本願明細書には、本願発明におけるシード液の代表的な具体例として、塩化第一スズ、塩化パラジウム、塩酸を溶媒とし、水を溶質としたものが示されていること(昭和五一年一〇月八日付手続補正書添附の補正明細書第二一頁第二行ないし第二二頁第一二行)が認められ、右事実によれば、本願第一発明において用いられるマスクの「シード液によつて実質上湿潤されることのない」という特性は、右のような溶質によつて湿潤されず、これを排斥するということであり、「疎水性」という特性は、溶媒である水を排斥することを意味するものと解するのが相当である。一方、前掲甲第六号証によれば、引用例記載のものにおけるメツキ液は、アンモニア化硝酸銀、硫酸ヒドラジンを溶質とし、水を溶媒とするものであること(引用例第二欄第八ないし第二八行、及び第一図)が認められるから、引用例記載のもののマスクが有する「溶媒に対して強い排斥性」という特性は、右溶媒である水を排斥するもの、すなわち疎水性と同義であり、「キヤリア」は液体であつて(引用例第一欄第二七行)、溶媒としての働きをするものであることは明らかであるから、「キヤリアに対して強い排斥性」という特性も疎水性と同義のものであると解するのが相当である。

右のとおり本願第一発明におけるマスクは疎水性であると同時にシーダー非湿潤性であるのに対し、引用例記載のもののマスクは単に疎水性を有するのみであるから、両マスクは疎水性を有するという点では一致するものの全体としては異なつたものであることは明らかである。

なお、前掲甲第二号証及び成立に争いのない甲第三号証(昭和五二年四月一一日付手続補正書)によれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明における疎水性絶縁マスクはシリコン樹脂、フルオロカーボン樹脂(例えばテフロン)、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、及びこれらの混合物によつて形成され、エポキシ樹脂、フエノルホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂を所定の割合で混合すると特に良好な疎水性マスクが得られる旨記載されていること(昭和五一年一〇月八日付手続補正書添附の補正明細書第一五頁第一行ないし第一八頁第一五行、昭和五二年四月一一日付手続補正書添附の補正明細書第一頁(2))、一方、前掲甲第六号証によれば、引用例には、引用例記載のものの疎水性絶縁マスクとしては疎水性インクあるいはグリースが示されており(第一欄第五八ないし第六八行)、インクの優れた水反発性を十分利用するためには、実質上乾燥しないことが望ましいと記載されていること(第五欄第二七ないし第三一行)がそれぞれ認められ、以上のマスクの組成の違いは前記認定の特性の違いを裏付けるものとみることができる。

以上のとおり、本願第一発明と引用例記載のものとは、メツキ処理工程において用いるメツキ手段を異にするばかりでなく、右メツキ手段の相違により、用いられるマスクの性質にも相違をもたらしていることからすると、両者は、単に上位概念である「化学メツキ」によつて絶縁基板のマスクでおおわれていない露出面部分に金属メツキを施すことに技術的意義が存するとみるべきではなく、前記メツキ手段の相違に重要な技術的意義があるものと認めるのが相当であるから、審決が、本願第一発明と引用例記載のものとは、化学メツキを行つている点で同一であると認定するにとどまり、メツキ手段の相違に重要な技術的意義がある点を看過したことは誤りであるといわざるを得ない。そして、本願第一発明と引用例記載のものにおけるマスクの性質は一部一致するものの、全体的には異なる性質を有するものであるから、当然のことながら、右性質の相違によりシード液に対する適応作用も異なるものと認めるのが相当であるところ、審決がこの点を看過し、本願第一発明と引用例記載のものとは、疎水性物質によつてコーテイングを行つている点で同一であると認定したことも誤りであるというべきである。

(三) 叙上説示の点に関し、被告は、審決においては、無電解メツキ(化学メツキ)を細分類した上で、本願第一発明と引用例記載のものにおけるメツキ法が同一であると認定しているのではない(無電解メツキ((化学メツキ))という点で両者は同一のメツキ法であると認定しているのである)から、審決の認定に誤りはない旨主張するが、本願第一発明と引用例記載のものにおけるメツキ手段は無電解メツキ(化学メツキ)である点で同一であるとしても、細分類したメツキ手段を対比することに重要な技術的意義が存すること、前記(二)に説示したとおりであるから、被告の右主張は理由がない。

また、被告は、本願第一発明における「絶縁基板を無電解金属メツキ液に浸漬して」との点に関し、本願第一発明と引用例記載のものとは、無電解メツキ液の「浸漬」と「吹付」の相違はあるものの、無電解メツキ法におけるメツキ液の「浸漬」と「吹付」は互いに周知であるとともに、本願第一発明において「浸漬」と限定している点に格別の理由があるとは認められない旨主張するが、本願第一発明と引用例記載のものとは、「浸漬」や「吹付」というような適応時の具体的手法に違いがあるだけでなく、メツキ手段そのものに相違が存するのであるから、被告の右主張をもつてしても、メツキ手段の相違に基づく技術的意義の重要な相違を打ち消すことはできない。

また、被告は、本願第一発明における絶縁マスクはシーダー非湿潤性で、かつ、疎水性であるものでなければならないから、右マスクについてそれが疎水性である前にシーダー非湿潤性であることが重要であるとする原告の主張は失当であり、原告が援用するシード液が有機溶媒を基材としている場合の絶縁マスクはシーダー非湿潤性ではあるが、疎水性ではないので、シーダー非湿潤性で、かつ、疎水性であるという本願第一発明における絶縁マスクの要件を満たさないから、右マスクは本願第一発明の対象外のものであり、一方、シード液が水性の場合、シーダー非湿潤性であることがとりもなおさず疎水性を意味することになるから、シード液が水性である場合のみを対象とする本願第一発明における絶縁マスクと、引用例記載のものにおける水排斥性のコーテイングによるマスクとは実質的に同じものである旨主張する。

本願第一発明の要旨から明らかなように右発明における絶縁マスクはシーダー非湿潤性で、かつ、疎水性のものであるから、そのうちシーダー非湿潤性が特に重要であるとする原告の主張は必ずしも当を得たものということはできないが、ここでの争点の中核は本願第一発明の絶縁マスクと引用例記載のものの絶縁マスクの異同ということであり、この点につき、本願第一発明の絶縁マスクと引用例記載のものの絶縁マスクとが実質的に異なるものであることは前記説示のとおりである。

もつとも、前掲甲第二号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明に、(イ)「絶縁性回路基板を無電解メツキ可能なように増感するのに使用するシード液は一般に水性液であるので、シード剤排斥用マスクにも(中略)疎水性のもの、すなわち水を排除する性質のものを用いる。」(昭和五一年一〇月八日付手続補正書添附の補正明細書第一四頁第一六ないし第二〇行)、(ロ)「シード液が有機溶媒を基材としている場合には、マスク材料にも有機溶媒排斥性のもの、すなわち有機溶媒により実質上湿潤されることのないものを使用する。」(同第一八頁第一六ないし第一九行)と記載されていることが認められ、右各記載のみからすると、(イ)の場合のマスクは疎水性であること、(ロ)の場合のマスクは有機溶媒排斥性であることの各要件を満たせば足りるようにみられなくはない。しかしながら、本願第一発明における絶縁マスクは、発明の要旨から明らかなようにシーダー非湿潤性で、かつ、疎水性であることを要件とし、前記説示したとおり右特性はその内容を異にするものであるから、前記(イ)、(ロ)は、特に、シード液が水性のものであるか、あるいは有機溶媒を基材としているかによつて、マスクの材料の性質が異なるものでなければならないことを注意的に記載したものであつて、(イ)の場合のマスクは疎水性のほかにシーダー非湿潤性を、(ロ)の場合のマスクは有機溶媒排斥性のほかにシーダー非湿潤性をそれぞれ有さねばならないことは当然の前提としているものと認められる。したがつて、シーダー非湿潤性即疎水性のものと規定し、その点で本願第一発明の絶縁マスクは引用例記載のものにおける水排斥性のコーテイングによるマスクと実質的に同一であるとする被告の前記主張も理由がない。

2 次に、本願第一発明は増感処理工程を有しているのに対し、引用例記載のものは右工程を欠いている点について、右相違点に格別の発明力を要するとは認め難いとした審決の判断の当否について検討する。

(一) 引用例記載のものは、本願第一発明において必須の構成要件である、絶縁基板の疎水性マスクがおおわれていない露出面部分に無電解金属メツキに対する受容性を与える工程、すなわち増感処理工程を欠くことは前記1、(一)で認定したとおりであり、また、前掲甲第六号証によれば、引用例には、右増感処理工程の適用を示唆する記載も存しないことが認められる。

そして、前記説示のとおり、本願第一発明と引用例記載のものとは、前者がシード液を利用する無電解金属メツキであるのに対し、後者は化学的還元法によるメツキである点でメツキ手段を異にし、また、用いられるマスクの特性に関して、前者はシーダー非湿潤性であるのに対し、後者は溶媒等非湿潤性であるという相違があり、右メツキ手段やマスクの性質の相違に重要な技術的意義が存することを総合すると、本願第一発明と引用例記載のものとは、絶縁基板に回路パターンのメツキ層を形成するという点においてわずかに共通性があるだけで、絶縁基板にメツキ層を形成する方法としては全く別異の技術手段を用いているものと認められる。

右のとおり、本願第一発明と引用例記載のものとは、全く別異の技術手段を用いており、しかも、引用例には、本願第一発明で用いている増感処理という技術手段を利用することについて何ら示唆するところもないのであるから、引用例記載のものそのものに本願第一発明で用いられているような増感処理という技術手段を採用する必然性はなく、その点において引用例記載のものは本願第一発明の構成に対する基因性を有しないものというべきである。したがつて、シード液を利用する無電解金属メツキにおいて、無電解メツキの前処理工程として増感処理を行うことが本件出願当時周知慣用の技術であつたことは当事者間に争いがないけれども、増感処理工程を引用例記載のものに適用することが当業者において適宜なし得ることであるとは到底認め難い。

よつて、本願第一発明は増感処理工程を有しているのに対し、引用例記載のものは右工程を欠いているという相違点に関し、「無電解メツキの前処理として増感処理を行うことは周知慣用技術(中略)であるから、無電解メツキ液と同じ水溶性の増感用シード液を排斥するために疎水性物質でコーテイングを施し、増感処理を行つた後無電解メツキによつて、メツキ層を形成することは当業者が必要に応じて適宜実施し得ることであり、右相違点に格別の発明力を要するとは認めがたい。」とした審決の判断は誤つているといわざるを得ない。

(二) 右相違点に対する審決の判断について、被告は、絶縁基板に金属を無電解メツキによつて被着する場合に、メツキ層の不必要な部分をマスクで被覆し、メツキ層の必要な部分にのみメツキ層を形成させるようにすることは慣用の技術手段であり、乙第一号証、第二号証の一・二によれば、右マスクを無電解メツキ層の被着工程のみならず、その前処理層被着工程におけるマスクとしても共通に使用することは本件出願前から周知の技術的事項であつたから、引用例記載のものにおける疎水性物質によるコーテイングマスクを、無電解メツキの前処理工程であるシード液の浸漬工程に使用することに格別の発明力を要するものとは認め難い旨主張するが、以下説示するとおり、右主張は理由がないものというべきである(なお、原告は、乙第一、第二号証の記載を根拠とする被告の主張自体不当である旨主張するが((請求の原因四、2、(二)、(1)))、審決は、無電解メツキの前処理として増感処理を行うことは周知慣用技術であること、したがつて、右工程を採用した場合には、疎水性物質によるコーテイングは、無電解メツキ工程だけでなく増感処理工程にも共通して使用できることを前提として立論しているのであるから、被告が右乙号各証に基づいて、右共用が周知技術であることを主張、立証すること自体は何ら妨げられないものというべく、原告の右主張は採用できない。)。

まず、成立に争いのない乙第一号証によれば、昭和三六年特許出願公告第一八五七九号公報には、「絶縁基板を剥離可能なマスクで被覆した後、基板上に必要な孔を設け、右孔の内面及び基板片面ないし両面を活性化し、次いで右活性化部分に銀の被覆を行い、さらに銀の被覆上にメツキによつて銅を被覆し、その後右剥離可能なマスクを剥離して、基板の孔内に金属の内張りを形成する方法」(別紙図面(三)参照)が記載されていること、成立に争いのない乙第二号証の一によれば、昭和四三年特許出願公告第一六七〇五号公報には、「絶縁基板に孔を穿設し、右孔及び孔の周囲を除いて発水性マスクをかぶせ、しかる後無電解メツキに対する前処理を施して、右孔及び孔の周囲に前処理層を形成し、次いで無電解メツキ層を右孔及び孔の周囲に被覆させた後、右孔及び孔の周囲のメツキ部分を補強した、絶縁基板のスルーホールを製造する方法」(別紙図面(四)参照)が記載されていることがそれぞれ認められる。なお、乙第二号証の二(前記乙第二号証の一の訂正公報)は、本件出願後である昭和四七年一月六日に発行されたものであるから、本願第一発明に対する公知の資料ともなり得ないことは明らかである。

ところで、乙第一号証記載のものは、無電解メツキ層の被着工程の前処理層被着工程(増感処理工程)において、マスク上に前処理層(シーダー層)が形成されることを阻止するものではないから、同号証は、マスクが無電解メツキ層の被着工程のみならず、その前処理層被着工程においても共通に使用されるものであることを裏付けるものではない。

次に、弁論の全趣旨によれば、無電解メツキにおいて、メツキ層不要部分をマスクで被覆し、メツキ層を要する部分のみにメツキ層を形成することは、慣用の技術手段であることが認められ、また、前記認定のとおり、乙第二号証の一には、絶縁基板のメツキ層を要する部分を除いて発水性マスクで被覆し、右マスクで被覆した以外の露出面部分に無電解メツキに対する前処理を行い、しかる後右マスクを用いたまま右前処理部分に無電解メツキ層を被着させる手段が記載されているが、同号証は、本願の優先権主張日である昭和四五年三月五日よりわずかに約一年八月前の昭和四三年七月一五日に出願公告されたものであるから、単に一個の特許出願公告公報である同号証に記載されている右手段が右優先権主張日当時すでに当業者に広く知られていたとは認め難く、他に、マスクを無電解メツキ層の被着工程のみならず、その前処理層被着工程にも共通に使用することが右優先権主張日当時周知であつたことを認めるべき証拠はないから、マスクを右各工程に共通に使用することが本願出願前から周知の技術的事項であつたということはできない。

右のとおりであつて、被告の前記主張は理由がない。

以上のとおり、本願第一発明と引用例記載のものとは、増感処理工程の有無のみに相違点が存するとした審決の認定、及び引用例記載のものに増感用シード液排斥のための疎水性コーテイングを施した上、増感処理を行うことを適用して、本願第一発明を想到するに至つたことは当業者にとつて格別の発明力を要しないとした審決の判断は、いずれも誤りであり、右誤りは、審決の結論に影響を及ぼすものであることは明らかであるから、審決は違法として取消しを免れない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容することとする。

〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

(1) 絶縁基板の少なくとも片面上に無電解金属メツキ用シード液によつて実質上湿潤されることのない疎水性絶縁マスクを形成して、当該基板表面のあらかじめ定められた面域を除く部分をその疎水性絶縁マスクでおおう工程と、

絶縁性基板を無電解金属メツキ用シード液に浸接して、基板表面の疎水性マスクでおおわれていない露出面部分に無電解金属メツキに対する受容性を与える工程と、

絶縁基板を無電解金属メツキ液に浸接して、疎水性絶縁マスクでおおわれている基板表面に金属を付着させることなく前記露出面部分にのみ金属を無電解メツキする工程、

とからなる絶縁基板に金属を選択的に被着する方法。(以下「本願第一発明」という。)

(2) 絶縁基板の少なくとも片面上に無電解金属メツキ用シード液によつて実質上湿潤させることのない疎水性絶縁マスクを形成して、当該基板表面のあらかじめ定められた面域を除く部分をその疎水性絶縁マスクでおおう工程と、

絶縁基板を無電解金属メツキ用シード液に浸接して、基板表面の疎水性マスクでおおわれていない露出面部分に無電解金属メツキに対する受容性を与える工程と、

絶縁基板を無電解金属メツキ液に浸接して、疎水性絶縁マスクでおおわれている基板表面に金属を付着させることなく前記露出面部分にのみ金属を無電解メツキする工程と、

絶縁基板を無電解メツキ金属を溶かすことのできるエツチング液で処理して、前記露出面部分に無電解メツキされたメツキ金属を実質上損うことなく疎水性絶縁マスク上にわずかに付着している無電解メツキ金属を除去する工程、

とからなる絶縁基板に金属を選択的に被着する方法。

(3) 絶縁基板の少なくとも片面上に無電金属メツキ用シード液によつて実質上湿潤されることのない疎水性絶縁マスクを形成して、当該基板表面のあらかじめ定められた面域を除く部分をその疎水性絶縁マスクでおおう工程と、

絶縁基板のあらかじめ定められた箇所に孔をあける工程と、

絶縁基板を無電金属メツキ用のシード液に浸接して、孔の内壁を含む絶縁基板の露出面に無電金属メツキに対する受容性を与える工程と、

絶縁基板を無電金属メツキ液に浸接して、疎水性絶縁マスクにおおわれている基板表面に金属を付着させることなく孔の内壁を含む絶縁基板の露出面にのみ金属を無電解メツキする工程、

とから成る絶縁基板に金属を選択的に被着する方法。

(4) 絶縁基板の少なくとも片面上に無電解金属メツキ用シード液によつて実質上湿潤されることのない疎水性絶縁マスクを形成して、当該基板表面のあらかじめ定められた面域を除く部分をその疎水性絶縁マスクでおおう工程と、

絶縁基板のあらかじめ定められた箇所に孔をあける工程と、

絶縁基板を無電解金属メツキ用のシード液に浸接して、孔の内壁を含む絶縁基板の露出面に無電解金属メツキに対する受容性を与える工程と、

絶縁基板を無電解金属メツキ液に浸接して、疎水性絶縁マスクにおおわれている基板表面に金属を付着させることなく孔の内壁を含む絶縁基板の露出面にのみ金属を無電解メツキする工程と、

絶縁基板を無電解メツキ金属を溶かすことのできるエツチング液で処理して、前記孔の内壁を含む絶縁基板の露出面にメツキされた無電解メツキ金属を実質上損うことなく疎水性絶縁マスク上にわずかに付着している無電解メツキ金属を除去する工程、

とから成る絶縁基板に金属を選択的に被着する方法。

(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

別紙図面(二)

<省略>

<省略>

(以下省略)

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